こんにちは。HiELCCで相談員をしています弁護士の長井です。
労働者が自分の意思で退職する場合、「辞職」するというだけでなく、「退職願」を出すということもあるのではないかと思います。
この「辞職」と「退職願の提出」。一般的には同じこととして扱われているかもしれませんが、それぞれ法的な意味合いは異なります。
まず、「辞職」とは労働者による一方的な告知によって、使用者との労働契約を終了させるものと言われています。
この労働者の「辞職」の意思表示は一方的なもので、使用者に届いた時点で解約告知としての法的効力が生じます。
そのため、後に労働者側からの撤回はできないとされています。労働者は2週間の予告期間をおけば原則としていつでも労働契約を解約できます(契約期間の定めのあるとき)(有期労働契約)は、契約期間の満了前に退職することはできませんが、「やむを得ない事由」がある場合には即時に解約できます。
次に一般的な就業規則に記載のある退職願による手続きは、労働者からの退職願の提出とこれに続く会社の受理(承認)により成立する合意解約と位置づけられます。この合意解約は、労働契約の当事者である労働者と使用者が合意して労働契約を将来に向けて解約、終了させるものです。合意解約では会社の受理(承認)が必要になりますので、「受理(承認)」(人事権限を有する管理職などによる必要あり)がなされるまで労働者からの退職願は撤回可能という特徴があります。
辞職と合意解約(退職願の提出・受理)では、一方的な意思表示か、合意によるかという違いのほか、辞職では予告期間が必要ですが、合意解約では当日にでも労働契約を終了できる点が異なります(当然、合意により具体的な退職日を決めることもできます。)。
ただ、実際の退職にまつわる局面では辞職と合意解約(退職願の提出・受理)で、どちらに位置づけられるか微妙な場合もあるかもしれません。そうした場合、労働者の保護という観点から、労働者が雇用契約を即時に終了させたいという意思 が明らかな場合に限り辞職の意思表示と見るべきで、そうでない場合は退職の確定時期が遅くなる合意解約と位置づけるべき場合が多いでしょう。 どちらも急な退職につながるものですが、業務の引き継ぎ、会社からの貸与品返還や私物の持ち帰り、業務情報の返還・消去など、重要な事項の取扱いを定めて実施する必要があるでしょうから、会社は労働者と十分協議の上で退職日やそれまでになすべきことを十分話し合い、円滑な退職につなげる必要があるでしょう。